ナナメヨミBlog

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新保守層と橋下・維新の会

 前回記事において、現代の日本政治を左右する「新保守層」の政治意識について考察した。都市部のサラリーマン層が中心となる「新保守層」は、地域共同体・業界団体が牛耳る「旧保守」の利益誘導政治、労働組合・組織化された弱者が影響力を行使する革新勢力(社民党共産党)の福祉行政、その双方との関わりが薄い。55年体制の政治はまさに「旧保守」vs「革新勢力」の政党政治の歴史であった。都市部サラリーマンは高所得なエリートは自民党支持中流下流のサラリーマンは社会党民社党共産党支持と分かれていた。自民党にとっては「旧保守」の利益誘導が第一であり、革新勢力にとっては社会的弱者の救済こそが第一であるので、都市部サラリーマンの要求実現は後回しにされがちであった。そのうちに、経済成長によって豊かな都市生活が実現すると、都市部サラリーマンにとっては政治よりも目の前の出世競争や消費生活・家庭生活の充実こそが第一になり、政治からは距離を置き、選挙も棄権するようになった(80年代〜90年代の低投票率)。この都市部サラリーマンの受け皿として現れたのが90年代前半の新党ブームにおける「日本新党」「新党さきがけ」といった保守政党である。この新党は新進党を経て、現在の民主党へと引き継がれていく。
 この「新保守層」政党の特質としては、革新勢力を「実現可能性のない政策を掲げる政党」であると批判して、旧保守勢力たる自民党を「利権バラマキ政治・官僚政治・国民(福祉)軽視の政治」であると批判する。革新勢力は「政権獲得の可能性」がないから駄目、自民党は利益誘導政治で地方・農村・特定業界のための政治だから駄目(=都市部サラリーマンのためにならない)、という具合である。革新勢力は政権獲得の可能性の低さゆえに徐々に民主党に票を奪われて衰退し、自民党もまた都市部での旧保守勢力の衰退と軌を一にして得票を減らした。そうやって、民主党は徐々に勢力を拡大した。
 ただ、この「新保守層」には、民主党の支持母体である連合傘下の組合員もいるが、大半は民主党を支持する組織に組み込まれておらず、直接的に利益を得る立場にいる人は少ない。そのため、支持政党は流動的であり、他党も政策・アピール次第では支持を取り付けることが可能な点、これまでの政党支持者とは異なる。自民党において、旧経世会が中心となった利益誘導政治が行き詰まり、清和会(森派町村派)が主導権を握るようになり小泉純一郎が首相になると、自民党は「改革政党」と称して党内の「旧保守勢力」=「利益誘導政治勢力」=旧経世会を「抵抗勢力」であるとして攻撃し、自民党は変わった(=新保守層のための政党に変わった)とアピールするようになった。そうすると、新保守層は自民党支持に転じて、小泉郵政選挙でその支持はピークに達した。だが、実態としては自民党は旧保守層の組織・金・票に依存している以上、いつまでも旧保守層たたきのパフォーマンスを続ける訳にもいかない。この上半身(=改革政党)と下半身(=旧保守層の政党)の矛盾によって、自民党は新保守層に見放され、また小泉以来の「旧保守層たたき」によって、旧保守層にも見放され、政権交代選挙の惨敗につながったのである。

 その後の民主党の失敗については、いまさら言及するまでもない。

 そして、「民主党はダメ、かといって自民党に戻るのも嫌」という新保守層の気分を汲み取って台頭したのが橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」である。町内会や業界団体といった「旧保守層」自民党の集票組織を攻撃し、公務員労働組合日教組といった「革新勢力」の支持母体も攻撃する。新保守層の深層にある「アンチ・旧保守層」「アンチ・革新」の意識をうまく刺激し、テレビメディアを駆使して弁舌巧みに旧保守層・革新双方を「既得権益」「既成政党」とレッテルを張って切り捨てることで新保守層の圧倒的支持を取り付けた。橋下徹を単なる「メディアの力によってのし上がったタレント政治家」という評価があるが、ただのタレントなら、あれほどの支持は取り付けにくい。天性の政治センス・処世術によって「誰を攻撃したらダメか、誰を攻撃しても問題ないか」を瞬時に見分けて、攻撃対象を定めて徹底的に攻撃する。「政策・方針が間違っていたら撤回してすぐに謝る。謝る必要のない相手なら開き直る」というスタイルも新保守層にとっては「無責任な政治家」ではなく、「自分たちと同じ、等身大の政治家」であると判断され、かえって支持を得るようになる。
 橋下徹の人気の源泉は、新保守層の政治意識を(意識的というよりも無意識的に)すくい上げたことにある。橋下は「民間の感覚では・・・」とか「がんばっている人が報われる社会に」といったフレーズを多用し、旧保守層や革新勢力は容赦なく攻撃しても、新保守層の中心たる都市部のサラリーマン層だけは絶対に批判しない。だからこそ、あれだけの支持を取り付けられたのである。旧保守層を基盤とする自民党労働組合を支持母体に抱える民主党と違って、「組織」「業界」「地域」のしがらみから自由である点、「新保守層」政党の決定版ともいえる存在である。(みんなの党も近い存在であるが、メンバーベンチャー企業社長・外資系企業幹部など上流階級すぎる点、党首の渡辺喜美世襲政治家である点で新保守層にとっては、とっつきにくさもあり、維新の会のような圧倒的な人気は得られないだろう)。

 しかし、この「新保守層」政党には重大な欠陥があるように思われる。それはまた次回。