参院選総括3〜新たな対立軸を求めて
・前回、前々回の続きです。
参院選から2週間たって、臨時国会も始まりましたが、総括続けます。
共産党と社民党、おなじような主張なのに明暗が分かれた。
社民党衰退の要因は「政権入りによる変節・有力議員の離党・弱体化」にある。以前、細川連立政権〜自社さ連立政権時代も政権与党の一角を担っていたが、その後に来たのは大幅な勢力後退だった。「現実路線」といえば聞こえがいいが、これは結局、「既存の支持者を切り捨てたものの、新しい支持層の獲得にはつながらず」マイナスにしかならなかった。前回の連立時も有力議員や有力支持団体(総評)が民主党に移動して退潮を余儀なくされた。こんかいは支持団体の移動についてはよくわからないが、辻元・阿部といった有力議員が離党したことで「福島みずほの個人政党」のようになってしまい、弱体化が止まらなくなってしまった。民主党政権の初期に政権から離脱したから、沖縄での支持など、コアな支持層はまだ生き残っていて致命傷とまではいかないが、沖縄や大分、北陸地方などごく一部の地方で存在感を発揮する局地的な政党になりつつある。国政政党としての役割は終わったのではないか。
共産党躍進、これが今回の選挙の一番の目玉だろう。ジリ貧状態が続いていた共産党が突如、躍進したと言うのは政治の地殻変動を示す重要な意味がある。躍進の要因は民主党、第三極が「自民党別働隊化」してしまったことで、まともな批判勢力が消えてしまったことにある。とくに、「消費税増税反対」「脱原発」の受け皿として2012年総選挙で注目された「日本未来の党」が小沢一郎グループに乗っ取られてあっと言う間に解党したのは大きかった。「非共産左派」といってもいい、左派の政策(護憲平和・弱者保護・労働者保護・福祉・環境・教育重視etc)を支持するけど共産党支持には抵抗がある無党派層が一定数いて、その多くは民主党を支持していたと思われるが、その人たちが民主党に裏切られ・未来の党に裏切られた結果、共産支持に流れたという見立てができる。都議選で共産党が民主党を上回り、野党第1党になったことで、政権批判の受け皿として名乗りを上げた感がある。自民公明圧勝が予想されしばらく選挙もなくなる状況で、ブレーキ役として共産党を支持したという人も一定いたようだ。
以上の話はいずれも「政党間の力関係・立ち位置」に関わる問題で、それなら共産党の政策そのものが支持されたのか、という点に関してだが、保守化しているといわれる20代でそこそこの支持を集めたところからして「ブラック企業」問題など、若者に差し迫った問題ではっきりとした主張をしたのが共産党だけだった、というのも躍進の要因として付け加えておきたい。消費税増税反対、原発ゼロ、ブラック企業対策というテーマで経営者側の政党(自民、維新、みんな)、御用組合側の政党(民主)、いずれも歯切れが悪い中で、一貫してぶれなかったというのは、政党間の移動の頻発・新党の乱立などで政治不信に陥っている有権者にとっては、(政策の実現性・実行力はともかくとして)裏切られないという一点では、信頼できる政党だと言えるからだ。「なんでも反対」だからダメだ、なんて言われるが、消費税増税で商売を続けられるか分からない自営業者、原発被害で生活を破壊された被災者、ブラック企業で今まさに人権侵害ともいえる過酷な条件で働かされる人にとっては、とにかく生き延びるためにこれ以上の負担を強いるな!と反対の声を上げることは、当然のことである。民主主義の第一歩は自分自身の主張を代弁する人を選ぶことではないかと思う。いま苦しい状況の人があげる「反対」の声こそ、政治家がまっさきに耳を傾けるべき価値のある意見だと、私は思う。
そして、最後に、山本太郎・糸数慶子といった無所属の健闘。これに、落選したものの大健闘したみどりの風、山形選挙区の舟山さんもあげておきたい。彼らの特徴は「反原発」「米軍基地県外移設」「TPP反対」というワンイシューで支持を集めたという点にある。自民党・安倍政権は「アベノミクス」で円安で輸出企業の収益が改善して株高、なんとなくいいんじゃないかという空気が広がっているが、個別政策に絞って考えれば、原発にしろ基地問題にしろTPPにしろ矛盾をはらんでいる。その矛盾を鋭く衝けば、いまの自民党政治はおかしいという声を集約して、自民党に勝てる、そういう可能性を示した選挙だった。
今回の選挙で「偽装左派」(左派を偽装して幅広い層から票を得て、実際には自民党政治をなぞるだけ)の民主党が没落したことは歓迎する。民主党が左派の受け皿のように振る舞い、政権与党として大々的に裏切ったことで、政治不信が蔓延して維新の会のような極右勢力を許し、橋下のような英雄待望論が幅を利かせてしまったことを見るに、「偽装左派」が日本の民主主義に残した傷は大きい。全体としてみれば、自民・公明両党で過半数を達成し、みんな・維新も改選議席は大幅に伸ばしたという意味で護憲派にとっては危機的な状況である。しかし、共産党という旗幟鮮明な左派が有力野党の一角として伸張したのは、日本の民主主義の発展にとって、良い出来事だったと言える。「自共対決」という共産党が掲げたスローガンは議席数の差から考えると、ばかばかしく感じる。だけれども、政策の対立軸として考えたとき、グローバル資本主義陣営(多国籍企業・富裕層)の利益を重視するか、労働者の生活・中小企業の存続・国土の環境保全といった「真の国益」を重視するか、という意味で「自民党vs共産党」の対立軸は今後の政治の一つの指針になるだろう。