ナナメヨミBlog

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新保守層の時代



旧保守

伝統的な地域共同体(農村・漁村・町内会・商店主)を基盤に票とカネを組織して自民党を支援し、政治的影響力を行使。補助金・優遇税制・公共事業による地域振興など。地域共同体を守ることを重視。個人への社会保障・福祉充実よりも公共事業や補助金による地域共同体の維持を求める。



新保守

都市部のサラリーマン層が中心。伝統的な地域共同体への関心が低く、企業に雇用されることで生活を成り立たせている。企業活動の自由・規制緩和に肯定的、企業の安定による雇用・生活の安定、企業により提供される商品・サービスによる都市文化を享受。公共事業や特定業界への補助金には否定的、個人への社会保障・福祉充実を求めるが、生活保護受給者・フリーターといった社会的弱者保護への負担には拒否感がある。

 保守=企業経営者・地域共同体・業界団体など「政治的圧力を加えることで業界・地域の利益を獲得する勢力」という「利権団体」とそのおこぼれにあずかる人、というイメージが根強い。都市部ではそういった保守層は少なく、それゆえに創価学会を支持基盤とする公明党労働組合を基盤とする革新勢力(社会党共産党)が一定の勢力を保ち続けてきた。
 だが、長引く不況・非正規雇用の蔓延などにより労働組合が企業と対抗する力を失い、高度資本主義社会による豊かな都市文化が定着するにつれて、「大企業優位の経済・日米安保体制」という現代日本の政治経済構造は「対決すべき相手」ではなく「守るべき社会」の構成要素と見なされるようになった。「大企業や日米安保体制との対決」を掲げる革新勢力は衰退した。
 一方で、都市部の人々のつながりは薄れて町内会の活動は形骸化・衰退し、大企業優位の経済体制によって個人商店・自営業者は廃業を余儀なくされ、自営業者の子弟はサラリーマンとなり、旧保守層の担い手も衰退した。
 こうして、都市部には、旧保守勢力と革新勢力が細々とした勢力を維持する一方で、両者から離脱した勢力が「新保守層」として台頭することになった。新保守層は「旧保守」が牛耳る利益誘導政治には否定的だが、企業活動の規制・日米安保体制の転換を主張する革新勢力にも否定的で、現代日本政治の基本的な枠組み「自由主義経済の推進による経済成長路線・日米同盟基軸の安全保障」の転換は求めない、そういう意味では旧保守とも革新とも相容れない。都市部のサラリーマンなので、血縁・地縁による相互扶助・共同体には頼れない、だから、行政による年金・医療制度の充実を求める、そのためには消費税増税などの負担もやむをえないと考える(そこそこの収入はあり、サラリーマンなので、消費税への負担感は少ない)。だが、生活保護受給者・フリーター・失業者といった弱者にたいする公的扶助への負担には拒否感がある。
 こういった特徴をもつ新保守層は政党では民主党を支持する人が多かった。旧保守の既得権益擁護とは縁が薄く、革新勢力のように政治経済・社会体制の抜本的転換までは求めない。現在の経済社会に対して肯定的な点で自民党の保守思想と相性がいいが、一方で都市部の住民として行政による福祉制度の維持に関心が高い点では革新勢力の政策と重なる点もある。「現代日本の社会経済体制・枠組みの維持」と「行政による福祉制度の充実」、この2点についてもっとも主張が近い政党が民主党であった。自民党は都市部住民の福祉よりも公共事業による旧保守への利益誘導に関心が高い点が新保守層とは相容れず、共産党社民党では日米安保体制への批判・「日の丸・君が代」に代表されるアンチ・ナショナリズムが心情的に受け入れられない、そのため消去法的に民主党が支持された。小選挙区制による「2大政党化」によって革新勢力は当選が難しくなり、民主党に流れる人も増えた。
 この新保守層は民主党支持がメインだが、社会保障への関心・注目が高まる場合には革新勢力を支持する場合もある。あるいは「小泉郵政選挙」のように「旧保守層との対決」を自民党が掲げた場合には自民党支持に流れる。北朝鮮・中国との対立といった「現代日本の社会経済体制」そのものへの脅威が顕在化した時にも、思想的な点で保守主義を掲げる自民党支持に流れる。そのため、この「新保守層」は「無党派層」と呼ばれることが一般的である。だが、「無党派層」では、どんな背景を持つ人が支持しているのかというイメージが分かりづらくなるので「新保守層」という定義を用いたほうが、より実態に近づけるのではないかと思う。
 この新保守層が演出したのが2009年の民主党による「政権交代」だった。2005年の小泉郵政選挙も「旧保守との対決」という点では新保守層が演出した選挙だったが、社会保障制度への関心の低さという自民党の本来の姿が前面に出てくるにつれて新保守層は自民党を見放し民主党支持へと流れていった。そういう意味では小泉郵政選挙は「移ろいやすい国民による劇場型政治無党派層による劇場型選挙」とはいえるが、新保守層の関心のうちの一部分を巧みに刺激して幻惑させて自民党支持に吸収していった点において「新保守層による政権」ではなかった。
 2009年の民主党政権交代」、それは「子ども手当・高校無償化・最低保障年金」など都市部サラリーマンの社会保障への関心に合致した政策を民主党が掲げ、自民党が「旧保守」化したことに対する批判の受け皿となったことが大きかった。民主党現代日本の政治経済社会構造の改革にまでは踏み込まない点、企業活動への規制を加えない点、革新勢力のような危うさも感じられず、新保守層は「まかせてみてもいいか」という気になったのではないだろうか。
 ただ、この民主党政権は完全に失敗した。一つは鳩山政権による「普天間基地移設問題」である。日米安保体制には肯定的で「よけいなことはしなくてもいい」と考える新保守層にとっては、普天間基地移設問題でアメリカとの関係が悪化したのは「想定外」だったろうかと思う。二つ目は「政治主導」によって「旧保守層への利益誘導政治から新保守層のための政策」への転換をするはずが、政治家として政策立案能力の低さ・調整能力の低さゆえに実現せず、官僚機構に取り込まれて「自民党化」し、マニフェストに掲げた政策を次々と放棄せざるを得なくなってしまったことがある。三つ目はリーマンショックによる税収減・景気悪化、欧米の信用不安問題によって、マニフェスト実現よりも財政再建のための歳出削減・増税アメリカの輸出支援政策(TPP)が、国際的に日本に要請されるようになってしまったこと。四つ目は東日本大震災福島第一原発事故により、震災復興・原発事故の収束・エネルギー問題という課題がのしかかってしまったこと。震災復興は上手に進めればむしろ支持回復の契機にもなりえたが、財政再建の問題、「政治主導」による官僚機構の不全、民主党の内部抗争によってせっかくのチャンスをフイにしてしまった。
 この民主党政権の失敗によって、新保守層は民主党を見放した。そして、統治機構の安定性を求める人は自民党支持にうつり、旧保守層・革新勢力の破壊による新保守層の利益の追求をする人々は「維新の会」「みんなの党」といった勢力を支持している。この「特定の支持政党を持たない」新保守層の政治意識・社会意識がどうなるか、それこそが日本政治の趨勢を見極める上で重要になるだろう。