ナナメヨミBlog

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民進党解体劇の背景とリベラルの再生にむけて 2017年10月22日衆議院選挙の分析(その1)

 安倍首相の突然の解散によって衆議院選挙が行われることになった。小池百合子希望の党を設立、民進党は前原代表が全候補者の公認を取り消して希望の党への合流をめざし、対する希望の党民進党出身者を「選別」する意向を示したため、民進党リベラル派の枝野代表代行が立憲民主党を立ち上げた。この一週間の政局は政治に関心の強い私でさえもなかなかついていけない猛スピードであり、複雑怪奇だ。とはいえ、これで選挙の構図は固まった感がある。自民・公明の政権与党勢力vs希望・維新の保守系改革派勢力vs立憲民進・共産・社民のリベラル・左派勢力という構図だ。こうやってみると、保守派とリベラル派が同居して方向性の定まらない民進党が解党してすっきりしたなというのが正直な感想だ。政権交代を目指す、自民党を倒すという一点で結集したのが民主党であり、政権交代という目標があるがゆえに民主党の保守・リベラル・左派はいろいろ不満を持ちながらも同居し続け民主党は求心力を保っていた。それが、政権から転落して政党支持率は低迷し、選挙では惨敗続きとなり求心力が急速に失われていった。それでも、みんなの党の解体、維新の党との合併などで野党第一党の地位は保っていたが、ここにきて分解するに至った。ニュースやワイドショーでは混乱する政局の表面的な部分ばかりがクローズアップされ、その本質は何かについての分析はない。私なりにこの「民進党解体劇」を分析してみたい。

民進党解体の引き金をひいた野党共闘

 民主党は2012年総選挙で大惨敗を喫して野党に転落した。その後は党勢が低迷したままで2013年の都議会選、参院選でも惨敗、そして2014年総選挙では議席は増やしたものの100議席には遠く及ばず、政権奪還の機運は完全にしぼんでしまった。それでも民主党は解体せずに存続した。それがなぜ、今回の総選挙を前にして解体に至ったのか?「無能な前原が策に溺れた」という前原個人の問題もあるが、民進党解体の引き金を引いたのは共産党との野党共闘だろう。民進党の支持母体である連合はもともと共産党系の組合を排除する形で発足した。連合にとっては「アンチ共産」こそが原点なのである。大企業中心、経営陣と協調する連合にとって、企業との対決姿勢をとる共産党系組合は相容れない存在であり、共産党との共闘もありえないという考えだ。2016年参議院選挙では、参院選政権選択選挙ではないから一人区での野党共闘が実現したが、これは選挙区の「住み分け」にとどまり、政策協定・相互推薦といった踏み込んだ共闘ではなかった。衆院選政権選択選挙であり、そこで共産党との野党共闘に踏み込めば民進党は共産系組合にも配慮せざるをえなくなり、連合の存在感は低下する。共産票を得て当選した議員が多数を占めれば、共産党にますます依存することになる。その危機感が連合会長と小池・前原の三者密談による野党共闘破棄・民進党解体に結びついたのだろう。

連合の変節が招いた民進党の動揺

 思えば、この解体劇には伏線があった。東京都議会選挙で連合が小池百合子率いる都民ファーストを支援したこと、「残業代ゼロ法案」で連合が自民党と修正案で一旦は合意したことである。連合が民進党以外の政党を支援したことで、「民進党から離党すれば連合の支援を失う。だから民進党にとどまる」と考えていた議員にとって民進党にこだわる理由がなくなってしまった。小池新党でも連合の支援を得られるのなら、小池人気にあやかって無党派票を稼げば選挙に勝てると考えた議員は多かっただろう。共産票に頼って連合との関係を悪化させるよりも、連合の支援と無党派票を得るほうがハードルは低いし当選確率も高そうだと考えるのは不思議ではない。とくに首都圏の議員にとっては。そして「残業代ゼロ法案」では連合は民進党の頭越しに政府・自民党と直接交渉し修正案で一旦合意した。のちに傘下組合の猛反発により撤回されたとはいえ、連合上層部が政府・自民党と一旦は合意したのである。連合が民進党に見切りをつけて政府・自民党に接近している、このままでは次の選挙で連合の支援を得られるのか?と疑心暗鬼になった議員もいたのではないだろうか。連合が保守化して、小池新党や自民党に接近したのは、共産党との野党共闘への反発・牽制の狙いもあったのだろう。この連合の動きが今回の民進党解体を後押ししたのは間違いないだろう。

企業優位社会の対抗軸としてのリベラル

 そして連合の保守化の背景にあるのは連合組合員の保守化であり、企業優位の労使関係になる経済構造、社会のセーフティネットの崩壊による労働者の企業依存体質、これらは一朝一夕には解決できない根深い問題である。枝野氏は立憲民主党でリベラルの旗を立てるという。連合でも傘下の組合の対応は希望の党応援、立憲民主党応援と個別対応になるので、連合の支援もある程度期待できる。しかし、リベラルを支える市民、その市民を支える環境は日本では未成熟である。経済優位、企業優位の発想から抜け出た市民社会が安定的に存在しない限り、リベラルは土台から崩れ去ってしまうだろう。その先にあるのは、すべての国民が政府と企業の意向を忖度する息苦しい社会である。今回の選挙はリベラルの存亡を賭けた重大な選挙である。リベラル派が三極対決のなかでどの程度の勢力を占めるかで今後の日本社会のあり方は大きく変わっていく、そんな予感がある。