ナナメヨミBlog

旧ナナメヨミ日記。Blogに移行しました。

グローバリズムvsナショナリズム? グローバリズム&ナショナリズム?

 内田樹さんの書籍やブログ記事は当ブログでよく取り上げていますが、この記事朝日新聞の「オピニオン」欄に寄稿 - 内田樹の研究室には、何度もうなずかされました。
 グローバリズムナショナリズムの問題を取り上げるとき、この二つを対立するものとして捉える見方が一般的です。多国籍企業によるグローバル化自由貿易新自由主義規制緩和など)と国民経済(地域・伝統・文化・慣習を重視する)のどちらをとるか?という筋立てで、左派系の学者や保守派でも佐伯啓思のように反グローバリズムの立場の論客はだいたい、この構図で話をすすめます。最終的には、国民経済を守らないといけないという話で落ち着きます。最近ではTPPの問題でも、反対派はこの構図で反対論を組み立てていました。
 グローバリズムvsナショナリズムという構図は分かりやすいロジックではあるし、ヨーロッパでは「反グローバリズム」の運動も一定の勢力があります。にもかかわらず、日本では、イマイチ広がらない。それはグローバリズムナショナリズムが日本では補完的な関係にあるからなんですね。そのことを内田樹さんは分かりやすく説明しています。日本ではグローバリゼーションの経済競争を「避けられない世界的潮流」であるとしたうえで、そのグローバル競争に勝つ為に「グローバル競争に勝たないと日本が潰れる」というロジックで、国民のナショナリズムの感情に訴えかけて、グローバル競争に勝つ為に「日本企業」「富裕層」をどんどん支援しないといけない、という世論になりがちです。税制でも労働法制でも原発問題でも、あらゆるテーマで「日本企業が勝つ為に日本国民はどれだけ犠牲を払えるのか?」ということが問われています。ここではグローバリズムナショナリズムが対立的ではなく、グローバル競争に勝ち抜くためにナショナリズムの意識が動員されている。ナショナリズムがグローバル競争を支えているんですね。といっても、ナショナリズムを「日本企業の利益」「富裕層の利益」という「日本国民の国益」とは違う目的のために巧妙に利用しているのが特徴です。いまや「トリクルダウン」なんてほとんどない(会社が儲かっても正社員の給料はなかなか上がらず、派遣・アルバイトの賃金や下請け企業の単価は買い叩かれる一方)、富裕層に「社会的責任意識」なんてほとんどない(むしろ、戦争や内乱・災害があれば真っ先に逃げ出す能力を持っている)。にもかかわらず、多国籍企業や富裕層といった「強い人たち」がいなくなると日本がダメになる、だからもっと「強い人たち」を支援しろ、という要求を国民が飲まされ続けています。
 私は大学時代のゼミで佐伯啓思反グローバリズムの論考を勉強して以来、グローバリズムの問題には関心をもちつつも、ヨーロッパのような「反グローバリズム」の運動が日本ではいっこうに出てこないことに疑問がありました。日本ではグローバル大企業の影響力が強くて、グローバル大企業の利益=国民経済にもプラスになる、という発想が強いからじゃないかとは私は薄々感じていましたが、いまいち考えがまとまりませんでした。その着想を「ナショナリズムをグローバル競争に動員している」と手際よくまとめた内田樹さんはさすがに鋭い見方ですね。昔ながらの左翼の人に言わせればマルクスの時代から言われている「常識」らしいですが、現代社会のあらゆる政治・経済の問題に適応できる、本質をとらえた構図だと思います。この内田樹さんの記事は必読です。