ナナメヨミBlog

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2016年参院選総括

 今回の参議院選挙について当ブログなりの総括をしたい。今回の選挙は改憲勢力が(憲法改正発議に必要な)参議院の三分の二を占めるかどうかが注目された。結果は改憲勢力が三分の二を超えることになった。この「改憲勢力」という言葉が曲者で、改憲賛成の無所属議員は含まれず、民進党議員はひとまとめに「護憲勢力」にカウントされ、どちらかというと9条改定に消極的な公明党改憲勢力にカウントされる。それでも改憲勢力が三分の二を超え、憲法改正発議が可能な状況ができたというのは戦後政治では初めてのことである。今回の参議院選挙、私なりに注目したポイントについての記していきたい。

消えた「第三極」票のゆくえ

 民主党政権が失速しはじめた2010年の参議院選挙ではみんなの党が躍進した。「民主党はだめだ、でも自民党には戻したくない」「かといって社民・共産には抵抗がある」改革派志向の有権者の人気を集めた。民主党が下野した2012年総選挙では橋下率いる日本維新の会が大躍進し、維新・みんなの比例得票は自民党を上回った。しかし、安倍政権誕生後は野党でもなく与党でもない中途半端な立ち位置ゆえに党内がまとまらず、みんなの党は解党、維新は民進党と合併する江田氏・松野氏らの勢力と橋下派のおおさか維新に分裂した。今回の選挙は「おおさか維新」として挑んだため、関西圏以外の有権者からは敬遠された。関西圏以外では「第三極」勢力が消滅した今回、これらの票はどこに流れたのか。
 選挙結果を見る限り、自民、民進、おおさか維新に三分裂したようである。自民党が久々に比例2000万票回復、民進党も比例得票1100万票を超えた。前回選挙に比べそれぞれ数百万票の上積みである。おおさか維新も近畿圏以外で300万票程度を獲得した。自民党安倍政権が長期化し、安倍政権は(旧経世会田中派竹下派的な)いわゆる「自民党政治」とは違い、派閥争いや利権争いが起こらず官邸主導で一枚岩であるため、(小泉郵政改革に熱狂した)改革志向の有権者自民党に回帰したと思われる。一方で民主党も維新離党組と合流し民進党に改名し、下野から3年以上経過したため「民主党政権アレルギー」が緩和したことが得票の回復につながった。それでも両党に否定的な有権者は「おおさか」の看板に目をつむって維新に投票したのだろう。改革志向の有権者の投票行動はおそらく、こんな感じであろう。
 共産党は本来、もっとも急進的な改革派であるのに、改革志向の有権者を取り込みきれていない。2012年総選挙を底に、2013年参院選、2014年総選挙と躍進したが、今回は伸び悩んだ。改革志向有権者は「非共産」志向でもあるのだろう。

18歳選挙権をどうみるか

 今回の選挙のポイントに「18歳選挙権」も挙げられる。選挙前から「18歳選挙権」にまつわる報道は多かった。朝日新聞ではアイドルグループAKB48メンバーと若手憲法学者の木村草太の対談記事を載せ、学校では「模擬投票」「主権者教育」などが活発に行われた。各党も若者向け政策をアピールし「若者が選挙に行かないと若者が損する」といった世代間対立をあおる「シルバーデモクラシー論」も出てきていた。その成果か、18歳・19歳の投票率は45%だった。全体の投票率に比べれば低いが、20代の参院選での投票率が20〜30%台であることを考えると、高めの数字だと思う。この高い投票率は「はじめての18歳選挙権キャンペーン」が張られた今回限りなのか、それとも若年層が政治参加するきっかけになるのか。若い世代は自民党支持が高かったというが、若者が主権者としての自覚をもって社会をよりよくする自覚を持つようになるのだろうか。今後も注目していきたいポイントである。

野党共闘の成否

 今回の選挙では「共産党を含む」野党共闘が行われたという点でも画期的な選挙だった。全国32の1人区では野党統一候補を擁立し、結果は野党統一候補11勝21敗に終わった。事前の予想、現在の野党の力量からすれば上出来な結果だった。しかし改憲勢力の三分の二阻止の目標は達成できず、今後の展望が開けたとは言いにくい。野党がまとまらないと安倍政権を倒せない、野党共闘が必要という世論の切実さはよくわかるし、私は野党共闘には肯定的な立場だ。しかし民進党は維新吸収分以上の得票増加はなく、共産党も伸び悩んだ。野党共闘のわかりにくさゆえ、無党派層を巻き込むムーブメントは起こせなかったのではないか。野党共闘の結果、各党の政策の独自性、エッジの効いた主張がしにくくなり、「立憲主義を守れ」といったあいまいなスローガンばかりが前面に出た印象が強い。今回の選挙では、たとえば大阪選挙区では共産党候補と民進党候補が共倒れしたが、「野党共闘」で候補者調整や「票を流す」ことをもっと活発にしていれば議席が増やせたのでは?という声もでている。そういう「小手先の戦術」をもっと進めること=野党共闘の発展と考える人もいるが私はそうは思わない。各党の政策のすり合わせの深化、とりわけ社会保障とその財源の問題では一致するレベルまでもっていくべきだ。共産党天皇制や自衛隊の段階的解消論など「超長期ビジョン」は有権者の誤解を招くだけなので綱領からはずしたほうがいい。各党が政策をさらに練り上げて競い合いながら、政党そのものの自力を回復する、政党への信頼度を上げることが重要である。まず選挙ありき、票割りや票流しありきの発想からは、新しい有権者無党派層をどう惹きつけるかという視点がまったく欠けている。私は野党共闘は是々非々の対応でもいいのではないかと思う。民進党にも右から左までいるわけだから、改憲賛成議員の選挙区では共産党は共闘せず候補を立ててもかまわないのではないかと思う。

 とにかく重要なのは野党共闘陣営は郵政選挙政権交代選挙、2011年の大阪ダブル選挙で投票率を引き上げる原動力になった「改革志向の無党派層」をいかにひきつけ「改憲新自由主義」マインドから「護憲・生活者重視」マインドへの転換を促すかにかかっている。投票率が70%近くまで上昇すれば、あらたに1600万人近くの有権者が投票することになる。既存の得票の組み合わせを研究するより1600万人の大多数の心をつかまない限り、アベ政治を止めて新しい政治の流れを起こすことはできないだろう。