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菅野完「日本会議の研究」(扶桑社新書、2016年)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

 前回に続いて「日本会議本」である。著者の菅野氏は森友問題で籠池氏に食い込みインタビューに成功、籠池氏の代理人の如く振る舞っている人物である。菅野氏は奈良県出身、かつては部落解放運動や反ヘイトスピーチの活動にも関わった「人権派」である。ただ、左派・リベラルとも一線を画している。正体の掴みづらい人物である。
 「日本会議の研究」(以下、「菅野本」)では日本会議とは何か?、その歴史・憲法観に続き、草の根運動とその中心にいる「一群の人々」と呼ぶ活動家らを追っている。前回記事の「日本会議の正体」(以下、「青木本」)との違いは、元通信社記者の青木氏は当事者へのインタビューを中心にして日本会議の実像を描いているのに対して、菅野氏は取材もあるけれど過去の刊行物・資料を徹底的に追いかけて、点と点をつなぎ合わせていく作業に重点をおいている。菅野本は推理小説のような構成で日本会議の淵源に迫っていく点、読み応えがあり面白い。
 もう一つの違いは青木本は日本会議を支える組織として神社本庁生長の家を取り上げた。一方で菅野本ではもっぱら生長の家の活動家に焦点を合わせている。保守系の学者としてメディアに登場する百地章高橋史朗生長の家の活動家上がりだというのははじめて知った。菅野氏は冒頭で日本社会全体が右傾化しているわけではない、むしろカウンターデモや安保法制反対の活動なども盛んだ、と述べている。世間は右傾化しているわけではないのに、政権とその周辺の一部の人間だけが急激に右傾化している、だからその正体を突き止めようというのが菅野本の書き始めである。そして、その中心にいる日本会議活動家の経歴を洗い出していく。
 安倍政権の「保守」は特殊な宗教団体の活動家がブレーンになっている、そして彼らは明治憲法の復活を掲げているということが「世間の常識」になれば安倍政権を何となく支持しているような人は雲散霧消するんじゃないかと思う。一方で、菅野氏が指摘しているような「特殊な人々の運動」だけが日本の右傾化、安倍長期政権を支えているわけではないとも思う。菅野氏は日本の右傾化の正体を「一群の人々」の熱心な活動、その共通点である生長の家に還元しているが、私は少し違うと思う。私は菅野本では取り上げられなかった神社本庁神道のほうが日本国民の精神性に深く食い込み、日本の右傾化をすすめているのではないかと思う。私が言いたいのは、現在の神社本庁の運動力・組織力といった問題ではない。生長の家は所詮、新興宗教団体である。谷口雅春という教祖が「生命の實相」という本を出し、その本を読んだら病気が治ったというので広まった宗教である。出版を軸に利益を上げる、病気治しのご利益といい「よくある新興宗教の一つ」にすぎない。一方の神道明治憲法下では国家神道となり日本の戦争推進に大きな役割を果たした。国家神道は国家権力が国民に押し付けたものだから戦後はGHQ神道指令によって解体された。しかし、国家神道を受け入れる国民性・精神があったからこそ国家神道が日本を支配したという面も忘れてはならない。そして、国家神道は解体したが、国家神道を受け入れた日本人の精神は生き延びている。そこに日本の右傾化の正体があるのではないか(もちろん経済的問題や外交問題もあるが)。日本会議研究の本はたくさんあるが、これ以上読み込む必要はなさそうだ。私はそう考えて、いまは国家神道にかんする本を読み進めている。