ナナメヨミBlog

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消費税増税延期でみえた「選挙以前の問題」

 参議院選挙投票日まであと1ヶ月です。参議院選挙の争点、展望について書こうかと思っていましたが、「それ以前の問題」があるはずなのに、誰にも指摘されていないのが気にかかったので、今回は「それ以前の問題」について書こうかと思います。

 それ以前の問題、とは先日の安倍首相による消費税増税延期の「理由」に関する話です。消費税増税は当初、2014年4月に8%、2015年10月に10%というスケジュールでした。消費税8%増税は予定通りに行われましたが、消費税増税と円安による物価高で実質賃金が低下し消費も落ち込んだため、2014年末に安倍首相は「消費税増税の1年半延期」を表明しました。その時に「再延期はしない」とも言明しました。しかし、その後も景気の回復は思わしくありませんでした。当然の話です。だって、給料が上がらないのに物価だけが上がっていく状況では、消費に回せるお金はそもそもありません。大企業ではボーナスや給料が上がりましたが、大企業の正社員にしても失業や老後の不安を抱えたままでは、景気良くお金を使うよりもいざという時のために貯金しようと思うでしょう。しかし、安倍首相は「アベノミクスはうまくいっている」「着実に成長している」と繰り返すだけで「アベノミクスの失敗で経済が低迷している」とは決して認めません。だからといって「アベノミクスが成功しているので消費税を予定通りに引き上げる」こともできない。安倍首相はある時から「大震災やリーマンショックのような事態がない限り、消費税は増税する」と言い出しました。「再延期しない」のではなく「例外」を設けたわけですね。4月には熊本地震がありましたが、「大震災」とはなりませんでした。中国経済の失速、日経平均が一時より下落したことはあっても「リーマンショック」も起こっていない。そうなれば、「予定通り増税」のはずなんですが、それはできない。だから突然「世界経済はリーマンショック前夜だ」などとサミットで言い出した。そして、増税延期の理由を世界経済の不調のせいにして「日本経済はアベノミクスでうまくいってるのに、世界経済に足を引っ張られた」という話にしてしまった。サミットで「リーマンショック前夜」という安倍首相の見通しに同意した首脳はひとりもいませんでした。当たり前です。サミット参加国で一番成長率の低い日本こそが世界経済の足を引っ張っているのに、その日本の安倍首相は世界が日本の足を引っ張っているという真逆の主張をしているのですから。

 安倍首相が「リーマンショック前夜」と言い出したのは「消費税増税延期に関する過去の発言との整合性をとるため」という「単なる言いつくろい」にすぎない、というのは私もマスコミも国民の大半もなんとなく理解しています。首相本人だって「リーマンショック前夜」だなんて本気で思っていない。そもそも「リーマンショック」の時に何が起こったのか?日経平均株価は一時7000円割れまで暴落し、派遣切りで住宅を失って「派遣村」が出現し、大学生の内定取り消しは社会問題になりました。「リーマンショック前夜」だというなら、年金積立金の株式投資は縮小すべきだし(株価の暴落を予想しながら株を持ち続けるバカはいません)、非正規雇用に対するセーフティネットを拡充して「リーマンショック」に対して備えをすべきでしょう。それが一国の最高責任者がなすべきことです。しかし安倍首相は消費税増税を延期するだけで、他には何も語りませんでした。本来なら一国の最高責任者が「リーマンショック前夜」などと発言することは、それ自体が投資家に株価下落の不安を与えて株価下落を現実のものにしてしまう「予言の自己成就」効果があります。だから、そんな経済見通しに同意する国家首脳は誰もいないし、そもそも自らの発言の影響力を考えればそんな見通しを披露すること自体躊躇するのが当たり前です。首相自らが恐慌の引き金を引いたとなれば、マスメディアからも首相としての資質を問われ厳しく批判されることを覚悟しないといけない。しかし安倍首相にそんな躊躇も覚悟もない。どうしてか?それは「自分の発言なんてそんな対して影響力はないだろう」「マスコミに圧力かければマスコミをコントロールできる」「どうせ国民はバカだからマスコミが批判しなければ何もわからないだろう」とタカをくくっているからです。思ってもいないウソをついて平然としていれられる、自分もメディアも国民も「所詮その程度」だと考えている人間が一国の最高責任者に居座っている、そして国民も「政治家なんてその程度」だと分かったような顔をしている、「その程度の政治家が居座ることによる日本社会のリスク」なんて微塵も考えようとしない人が多くいる。そこに政治の劣化、メディアの劣化、国民世論の劣化を感じずにはいられません。

 わたしが「それ以前の問題」だというのは、この劣化のことです。これから1ヶ月で状況が大きく変化する可能性は低いけれども、それでも少しでも「異常な政治状況」をただしていくために力を尽くしていきたいです。