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大阪経済の活性化をどうするか

 大阪ダブル選挙の争点は大阪維新の政治手法、大阪都構想の是非である。一方で大阪経済をどうやって活性化させるかについては、自民・維新両者ともに巨大開発・インフラ整備や国際的イベント(万博やスポーツイベント)を掲げているため、大きな違いがない。選挙公約を見て私は非常にがっかりした。なぜなら、インフラ整備や国際的イベントというのは新興国発展途上国が先進国にキャッチアップするためにとる政策だからである。確かに大型港湾や高速道路、高速鉄道といったインフラの開発余地はあるとはいえ、インフラがないがために大阪経済が地盤沈下しているのかといえばそうではない。そもそも大阪経済がなぜ低迷しているのかということから議論を始めたい。
 大阪経済の低迷を分析するために、東京・愛知・大阪の三大都市を比較してみたい。そもそも1960年代までは大阪は東京・愛知以上に経済成長率の高い地域であった。鉄鋼・化学などの重化学工業から電機・繊維などの製造業、卸売小売・商社・金融など、あらゆる分野の一流企業が大阪に本社を構えていた。その大阪の地盤沈下が始まったのは1970年代に入ってからである。ひとつは重化学工業が公害対策のために厳しい環境規制をかけられたり、工場立地規制による大阪府外への工場移転である。もうひとつは高度成長が終わったことで大企業が拠点統廃合をすすめたり、許認可・租税特別措置などを受けるために中央官庁と連携しやすい東京への本社機能流出がはじまった。マスコミ・広告出版も東京に集中しているため、プロモーション活動をすすめる上でも東京に本社機能を立地するメリットが出てきた。さらには金融・証券業が東京中心になったため、資金調達・財務と言った面でも東京で活動することが必要になる。法務・財務・広報・人事、あらゆる部門で「大阪本社では情報が入ってこない、業界の流れに取り残される」ということになり東京への一極集中が加速した。
 そして1980年代以降になると、東京では企業のシステム開発などの情報通信やサービス業など、第三次産業の比重が高まっていく。こういった新しい産業へのニーズは東京に偏っていたため、さらに東京一極集中がすすむ。その後のインターネット関連企業や各種新興ビジネスも軒並み東京に拠点を置くことになった。経済・政治・文化芸術・マスコミ・学問などあらゆる分野で日本の中心たる東京は企業・人・カネを全国からひきつけ、経済成長を続けている。
 一方で、愛知県はトヨタ自動車を中心とする自動車産業が強い地域である。自動車産業は高度成長が終わった1970年代以降も強い国際競争力をもち、21世紀に入ったいまでも衰えるどころか、過去最高益をあげる力を持っている。製造業の空洞化が叫ばれる日本で、製造業の中心にあるのが自動車産業である。バブル崩壊以降も自動車産業に支えられた愛知県は全国平均を上回る経済成長率を見せている。
 東京が首都の強みを生かした一極集中と産業構造転換によるサービス産業によって繁栄し、愛知は自動車産業の高い競争力によって繁栄している。それに比べて大阪はどうか。金融や情報通信や広告出版、マスコミといったサービス産業は大阪では振るわず、製造業中心の産業構造が続いたままである。そして、その製造業は重化学工業や電機・繊維が中心であり、これらの業種はいずれも円高による産業空洞化・新興国との価格競争にさらされることになった。自動車産業のような円高新興国の台頭に打ち勝てる業種が少なかったため、大阪の製造業は衰退する一方である。パナソニックは巨額赤字で工場再編を余儀なくされ、三洋はパナソニックに買収され消滅、シャープは液晶テレビで急成長したものの中国・韓国との価格競争にまきこまれて倒産寸前である。産業構造の転換も進まず、製造業の国際競争力も弱い。それが大阪経済の抱える課題である。
 ここで大阪のとるべき戦略は二つある。ひとつは東京型のサービス産業・新しい産業の育成・支援であり、もう一つは愛知型の既存製造業の競争力強化、ものづくりの街・大阪の再生である。その経済戦略をすすめるために必要なのは何か?大阪府は大企業の本社機能の流出を避けるためや工場立地のために補助金や優遇税制などの政策をとったが効果はなかった。なぜなら、大企業にとって本社をどこにおくかは企業の存続をかけた重大な意思決定であり、判断ミスは企業の存続にも関わる問題である。そのため自治体の補助金や優遇程度では本社機能立地の決め手にはなりえない。一時的なカネをバラまくよりも、都市としての付加価値を高める政策こそが必要になる。
 私が提案するのは、大学の大阪市内中心部への誘致である。大阪市政令指定都市のなかでは大学・学生数が非常に少ない。新しい産業を立ち上げるには若い優秀な人材が必要になるが、学生の少ない大阪では人材確保が困難である。さらには大学は周辺に学生街をつくり、多くの学生が活動・生活することで地域が活性化される。また、大阪市民・府民の学力向上も必要になる。新しい産業への転換には教育の重視、子どもの貧困をなくすといったところから地道にはじめることが必要だと思う。シャープに立地補助金を出したところで、経営難になればすぐに撤退してしまう。教育こそ長期的視点で都市を再生する第一歩になるだろう。
 もう一つは文化レベルの向上である。「高付加価値化」という時、技術のハイテク化や生産の効率化などサプライサイドの技術革新がクローズアップされるが、いくら高付加価値な製品を作ったところで消費者に付加価値が認められなければ価格競争に陥ってしまう。そうならないためにも消費者たる市民の文化レベルを上げることで「良いものの価値を認める文化」を醸成することが重要になってくる。たとえば「泉州タオル」は大阪の特産品だが知名度はあまり高くない。泉州タオルの良さを知らない市民ばかりならただのタオルとして扱われコモディティ化して価格競争に巻き込まれて泉州タオルの製造業者はいくら高品質なタオルを作ったところで認められずに潰れてしまうだろう。しかし、その良さを認める消費者が増えれば、高品質な泉州タオルはただのタオルではない価値をもった商品として認められ、タオル製造業も存続できる。大阪にはなんでもかんでも安いものがいいものだ、安く買うことが偉いという風潮があり、それが地場産業の高付加価値化を阻害しているのではないかと思う。タオルにしてもその歴史・伝統などの知識がある人にとっては、さらに価値のあるものに感じられる。消費者の文化・教養・知識のレベルを高めることが高付加価値なものづくりを後押しすることになるのではないだろうか。また、高付加価値のものづくりに欠かせないのが国際競争に巻き込まれないことである。世界中で流通する製品・サービスのナンバーワンブランド(iPhoneGoogleなど)の力は圧倒的だが、それよりも大阪の住民の生活に密着した商品をつくることを目指したほうがよい。価格競争がなく他の地域からの参入もない地域密着・生活密着の商品なら国際競争に巻き込まれることもなく高付加価値を実現でき、安定した需要が期待でき、安定した雇用を生み出すことができる。
 今回のダブル選挙で掲げられたインフラ整備や巨大イベント誘致は、いずれも過去に失敗した政策の焼き直しにすぎない。ベイエリア開発をしたものの巨額の借金を積み上げ、オリンピック誘致は失敗し、APECや世界陸上といった国際イベントも大阪経済の活性化にはまったく結びつかなかった。教育・文化レベルを高めることこそサービス産業の発展、製造業の生き残りのカギになる。知的レベルや文化レベルこそが新産業やベンチャー企業、経済成長に結びつくという認識がもっと市民の間に広がることを期待したい。